2010年4月
星は様々なことを語りかけてくれます。
その輝きに、私たちは理想や希望を見出すこともあります。
こうしたことから星をデザインした校章も多くあります。
星章にどのような意志や願いを託したのでしょうか。
「北辰に衆星ともなう」
まずは旧制高等学校の校章から。
石川県金沢市に設置されていた官立の第四(だいし)高等学校は「北辰星章」(図1)。
校名にちなみ四稜星です。
北辰は北極星を意味します。
中国の「論語・為政編」には「政を為すに徳を以ってすれば、たとへば北辰の其の所に居て衆星の之に共ふが如し」とあります。
北天の星々は、北極星を中心に周回しているように見えます。
そうしたことから、古来より北極星は方位測定の基点とされました。
星々の中心となり、不動にして道を教える北辰(北極星)。
やがてそれが知徳を象徴するものとなり、校歌、校章にも多く用いられるようになりました。
四高(しこう)の北辰星章には剛健と理知と情熱の光が込められ、北都金沢に輝く「英知と人徳の拠点」たることを示します。
第四高等学校は、加賀藩の藩校明倫堂などを母体とした官立第四高等中学校の設置に始まります。
金沢城趾に接する校地は、かつて加賀藩が学問所を置いた場所。
現在、四高跡地は緑豊かに広々とした中央公園となりました。
ここに旧制四高の赤煉瓦本館や正門、守衛所が保存され、国の重要文化財に指定されています。
四高本館は「石川四高記念文化交流館」となり、「超然時習」「至誠自治」を校風とした四高の歴史と伝統、学生文化を今に伝えます。
四高生の青春群像は、井上靖の自伝小説「北の海」にもいきいきと描かれています。
「北に一星あり。小なれどその輝光強し」
小樽駅を降りて通称「地獄坂」を登り切ると、そこは煉瓦色の正門が美しい小樽商科大学です。
2011(平成23)年で創立百周年。
1910(明治43)年に我が国5番目の官立高等商業学校として設立された小樽高等商業学校を前身とします。
国立大学として唯一の社会科学系単科大学です。
「高商さん」は小樽市民の誇りでもありました。
高等商業学校設立当時、小樽の人々は「商神マーキュリーが舞い降りた」と喜んだとか。
かつて高商時代、瀟洒な校舎本館の中央避雷針はマーキュリーの杖をかたどり、それは今も大切に保管されています。
ここ「緑丘」で学び、「紳士たれ」の薫陶を受けた卒業生達は、日本を代表する企業や銀行で活躍しました。この学校に憧れて、北海道はもちろん全国からの志願者を集めました。
「北に一星あり。小なれどその輝光強し」。
高商時代から脈々と継承されている小樽商大のスピリット。
1998(平成10)年に制定された大学学章(シンボルマーク)(図2)もその象徴。
輝く一星のもとに商神マーキュリーの翼で「商大」がまさに羽ばたこうとしています。
この「商大」の文字からマスコットキャラクター「商大くん」も誕生しました。「商大」の「大」の字を手足に見たててよーく見ると、ほら「商大くん」が現れてきます(同大学のホームページで確認下さい)。
北に輝くその星は、たとえ小さくとも強き光を放つ。
小樽商科大学は、現在も特色ある様々な取り組みを進め、光り輝いています。
商大から眺める石狩湾も美しいですよ。
「建学の精神を継いで」
星薬科大学(東京都品川区)は薬学系単科大学。
建学者である星一(ほし・はじめ)は、1911(明治44)年に星製薬株式会社を創立しました。同社内に設置した教育部が、やがて薬学関係者を集めての星薬業講習会となり、さらに「疾病で悩む人々に健康を与え、幸福と平和をもたらす人材を育成したい」という願いのもとに星製薬商業学校、星薬学専門学校へと拡大し、ついには1950(昭和25)年の薬科大学設置に発展します。
「親切第一」のモットーは、ご子息である作家の星新一氏(本名:親一)のお名前にも反映されました。
同大学学章は「星」の中国古代文字をデザインしています(図3)。
大学の名称も学章も、星は星でも「STAR」ではなく「人名」です。
しかし、国民の幸福に向けた科学の発展を願う建学者の精神は、まさに「星」の輝きとなり、今も大学と学生達を導いています。
目を西に転じれば、京都産業大学は「サギタリウス(いて座)」の学章です。
ギリシア神話に登場する半人半馬のケンタウルスが、弓に矢をつがいてアンタレス(さそり座)を狙っています(図4)。
京都産業大学は、1965(昭和40)年に天文学者の荒木俊馬博士が建学しました。
建学にあたっては「宇宙を駆けめぐるほどに飛躍し新しい時代を切り開いていく希望あふれる若人の育成」を願いました。
「希望」も意味するサギタリウス。この学章には大学や学生のもつ大きな可能性への期待が込められています。
ちなみに京都産業大学アメリカンフットボールチームの名称も「サギタリウス」です。
「新月は絶えざる向上の象徴」
関西学院(かんせいがくいん)は三日月(新月)の校章。
フットボールの話を続ければ、関学チームのヘルメットには、KGマークと新月がビシリと描かれています(チーム名は「ファイターズ」です)。
この新月章の制定経緯については「関西学院百年史」をひもときましょう。
1889(明治22)年、関西学院はキリスト教主義に基づく青少年男子教育の場として、創設者W.R.ランバスと5人の教授及び19人の生徒で授業が開始されました。
学院創設の5年後、校章制定のために教員・生徒からなる委員会が結成され、生徒側からは「新月(三日月)」が、教員側らは「KG」の二文字が提案されました。これを協議した結果、両者をあわせた校章が制定された由(図5)。
新月はやがて満月になるごとく、今は未熟で不安定な自分達も絶えず向上して将来の円満に向かおうという理想。
月は太陽の光を受けて夜を照らすごとく、自分達も神の栄光と恵み受けて輝き、世の中を明るくしようという願い。
三日月にはこうした意志が表わされています。
関西学院のスクールモットー“Mastery for Service ”の言葉とともに、キャンパスの様々なところでこの校章を見かけます。
静かなれども高貴に学院を照らしています。
関西学院上ケ原キャンパスの美しさには誰もが魅了されます。
広い芝生と木々の緑の中に「スパニッシュ・ミッション・スタイル」という様式で統一された白亜の校舎群。
「建物自身が学生への精神的影響を及ぼす」として建造物のそれぞれにも意匠がこらされています。
訪れて決して損はいたしません!
「北のフロンティアスピリット」
星にちなむ校章は北海道に多くあります。
旧制の学校でいえば、北海道帝国大学予科が「桜星章」。
北極星を桜の花葉で環状に包み、フロンティアの光明と国の栄えを象徴します。
この校章は札幌農学校の校章を引き継いだもの。かつて札幌農学校の練武場だった札幌の「時計台」にも、そして北海道庁の赤れんが庁舎にも、見上げれば赤い星章が掲げられています。
星章はもともと北海道開拓使の「北海道船艦旗章」として考案されたとか。
「北辰」は「北進」に通じ、開拓精神の象徴です。
屯田兵の徽章、ビールや乳業など北海道の物産を扱う企業の社章や商標にも用いられました。
大学創立50周年を記念して、星のシンボルマークを制定したのが北海道教育大学。
“Hokkaido University of Education”の頭文字と「Education」のEを形成する5星が並びます。
5星は札幌、函館、旭川、釧路、岩見沢の5分校を表し、また北天のカシオペア座(北極星を見いだす目印)も意味するそうです。
この他に、北星学園大学(文字通りですね)、北海学園大学、北海道医療大学などの校章にも星がデザインされています。
北海道と星章は相性抜群です。
さて、次回は「商神マーキュリー(ヘルメス)」にちなむ校章を紹介いたしましょう。